TOPICS 医療コラム

乳歯の虫歯は“そのまま”が一番危険

乳歯の虫歯は放置しても大丈夫?

〜永久歯に影響する理由と正しいケア方法〜

「乳歯はいずれ抜けるから、虫歯になってもそんなに問題はないですよね?」
このような質問を、保護者の方からいただくことがあります。

しかし小児歯科の視点からお伝えすると、乳歯の虫歯は“その時だけの小さな問題”ではなく、
永久歯の成長・歯並び・噛む機能・発達・健康全体に関わる大きな問題につながることがあります。

乳歯は永久歯のための「道しるべ」として、とても重要な役割を担っています。
そのため乳歯の虫歯を放置してしまうと、将来の歯やお口の環境にさまざまな影響を及ぼします。

この記事では、乳歯の虫歯がもたらす影響と、今日からできる正しいケア方法について、詳しくお伝えします。


乳歯は“抜けるだけの歯”ではない

乳歯は、一時的に生えているようでいて、実は永久歯の発育に密接に関わっています。

乳歯が健康で正しい位置にあることで、
・永久歯が正しい方向へ生えやすくなる
・噛む力が顎の発達を促す
・発音がきれいに形成される
・食事をしっかり取り、健全な成長につながる
といった、成長期の大切な役割を果たしています。

つまり、乳歯は抜けるまで“しっかり活躍するべき歯”なのです。


乳歯の虫歯を放置すると何が起きる?

● 永久歯の質に影響する

乳歯の虫歯が深くなると、根の周りに炎症が広がり、そのすぐ近くに作られている永久歯のもと(歯胚)に影響を与えることがあります。
その結果、永久歯が白く濁る「エナメル質形成不全」や、もろく弱い歯として生えてくる場合があります。

これは、乳歯の虫歯を放置したことの“目に見える後遺症”のひとつです。


● 歯並びや噛み合わせが悪くなる

乳歯が虫歯で欠けたり、早く抜けてしまうと、そのスペースに隣の歯が倒れてきます。
その結果、永久歯が生えるためのスペースが足りなくなり、
・ガタガタ(叢生)
・八重歯
・生える位置のズレ
などの歯列不正につながります。

とくに奥歯は歯列を支える大黒柱のような存在で、乳歯でも早期喪失は大きな影響を及ぼします。


● 顎の発育が不十分になる

虫歯が痛いと、子どもは噛むことを避けてしまいます。
噛む刺激が少なくなると顎の発達が妨げられ、永久歯が並ぶスペースが不足します。
結果として歯並びの問題が起こりやすくなるため、乳歯でしっかり噛むことは発育のためにも重要です。


● 食事・睡眠・生活に影響

痛みがあると好きなものが食べられなくなったり、夜泣きが増えたりすることもあります。
「歯医者で痛い経験をしたこと」が、医療への恐怖心のきっかけになるケースもあります。


見落としがちな“隠れ虫歯”

乳歯はエナメル質が薄く、虫歯が早く進みます。
とくに奥歯の溝や歯と歯の間の虫歯は、見た目では分かりにくいことが多く、
「気づいたら穴が開いていた」というケースも珍しくありません。

そのため 定期的な歯科検診でのチェックが欠かせません。


乳歯の虫歯を防ぐための正しいケア方法

◆ 仕上げ磨きは小学校低学年頃まで

子どもの歯磨きだけではどうしても磨き残しが多く、特に奥歯の溝や歯間は要注意です。
夜だけでも保護者の仕上げ磨きを続けることで、虫歯リスクは大きく下がります。


◆ フッ素で歯を強くする

フッ素は、
・歯の表面を強くする
・初期むし歯を修復する
・細菌の働きを弱める
といった効果があります。

歯科医院でのフッ素塗布は、乳歯や生えたての永久歯を守るためにとても有効です。
ご自宅でもフッ素入り歯磨き粉を取り入れることで、予防効果がさらに高まります。


◆ シーラントで奥歯の溝を虫歯から守る

奥歯の溝は深く、どれだけ丁寧に磨いても完全に汚れを取り除くことは難しい部分です。

そこで役立つのが シーラント(予防填塞) です。
シーラントは、奥歯の溝に薄い樹脂を流し込んで汚れが入りにくくする処置で、
削らず・痛みもなく・短時間で終わるため、小さなお子さまにも適した予防法です。

特に、6歳前後に生えてくる“6歳臼歯”は虫歯リスクが非常に高いため、
シーラント処置は強くおすすめしています。


◆ 食習慣を整える

虫歯は甘いものだけが原因ではなく、“食べるタイミング”も大きく影響します。

・だらだら食べを避ける
・ジュースや甘い飲み物を常飲しない
・食後はお茶や水で口をすすぐ

こうした日常の習慣が、虫歯予防の鍵になります。


◆ デンタルフロスを取り入れる

乳歯の虫歯の多くは歯と歯の間から始まります。
フロスを夜の仕上げ磨きに取り入れるだけで、虫歯予防効果は大きく向上します。


◆ 定期健診は 1〜3か月に一度 が理想

乳歯は虫歯の進行が早いため、半年に一度の受診では見逃しが起こりがちです。
当院では、お子さんの虫歯リスクや磨き残しの状況に合わせて、
1〜3か月ごとの定期検診 を推奨しています。

この間隔で通っていただくことで、
・初期虫歯の早期発見
・歯のクリーニング(必要に応じてEMSも使用)
・フッ素塗布
・歯並びの経過観察
を確実に行うことができ、虫歯ゼロを目指しやすくなります。


虫歯ができてしまった場合の治療

虫歯が初期ならフッ素で進行を抑えられる可能性があります。
しかし進行している場合は、必要な範囲だけを最小限に削り、白い材料で詰める治療を行います。

もし抜歯が避けられない場合は、永久歯が正しく生えるスペースを確保するため、
保隙装置を使用して歯並びへの影響を最小限に抑えます。


最後に

乳歯の虫歯は「いずれ抜けるから大丈夫」というものではありません。
永久歯の健康、歯並び、顎の発達、生活の質としても深い関係があります。

当院では、
“虫歯を治す治療”よりも“虫歯をつくらない予防”
を重視し、一人ひとりのお子さまに寄り添ったケアを行っています。

「なんとなく気になる」「磨いているのに虫歯ができてしまう」
そんな小さな不安も、どうぞ気軽にご相談ください。

お子さまの未来の歯を守るために、私たちは全力でサポートいたします。

監修者情報

監修者情報

理事長新原 拓也

Takuya Shinhara

当院では、できるだけご自身の歯を大切にする予防診療をベースに一般的な保険診療、セラミック等を用いた審美治療、小児歯科、矯正、インプラント等、幅広く包括的な治療を行って参ります。現在私は二児の子育て中でありますが、美しい歯並びを獲得するには幼少期からの食育や筋機能療法が有効であると強く感じております。